23日のチケットが手に入りまして、行って来ました東京汐留『オペラ座の怪人』!
前売りは完売でしたし、前日予約も14時に電話をかけられるような状況ではなかったので、半分諦めていたのですが、たまたま四季のチケット予約のページを観た時に、たまたま23日のA席が▽表示になっておりまして、たまたま一つ席が空いていたんですわ、これが。
「うむ、これは観に行けという天のお達しだな!」と深々と頷きつつ、ポチッとボタンをクリックしてチケットを購入しました。
で、観てきたわけですが、うーん、何だろう。
オケが2日に観た時と比べると、全体的に消極的というのか、テンポもゆっくり、音程もやや下がり気味で、特に1幕目は何だか微妙に伸びたテープを聴いているような演奏になっていましたなぁ。
2幕目に入ると曲の輪郭は引き締まって来たのですが、今度は反対にやや前のめり気味で、役者さん置き去りでオケが走ってしまっている所もあったりなんかして、少し不安定な印象を受けました。
もう一つ気になったのが、オケの中で出だしが揃っていなかった事。
役者さんの歌い出しとオケが合わないのは、ある程度は仕方ないと思うのですが(伴奏を聴いてから歌い出したい人もいるでしょうし)、オケの中で出だしの音が揃わないのは、あまりよろしくないのではないかと。
吉住さんはわりとこう言うオケの縦の線をきっちり合わせて来る指揮者だと思うのですが、今日は少しばらつきが目立ちましたかね。
前回は伴奏が積極的にリズムを作って、その上に役者が乗っかって歌っていたような感じだったのが、今回はどちらかと言うと役者が伴奏を引っ張って行かなきゃいけない感じでして、「これはほとんどアカペラで歌うような覚悟で歌わないと、しんどいかも知れんなあ・・・」と思いました。
確かにオケが主体ではなく、あくまでも舞台上の演者が主体なのはその通りだと思うのですが、しかしもうちょっと積極的に音楽・・・特にテンポを作りに行ってもいいんじゃないかと思いますね。
個々の役者さんに合わせようとし過ぎて、結果として伴奏も歌唱も不安定になっていたような気がします。
ソロで歌い上げるアリアなら役者個人に任せてもいいかも知れませんが、重唱や掛け合いとなると、なかなか全体としてのテンポを役者が整えるのは難しいのでね。
それから今回観て思ったのですが、[Overture]と[The Phantom of The Opera]はテープを使っているのかな。
YouTubeの通し稽古の動画では、[The Phantom of The Opera]は生演奏で、役者さんも生で歌ってるような気がするのですが、どうも本番では歌も伴奏もテープのような気がする。
オケが舞台とのバランスをどう取るか、今は思考錯誤の真っ只中という感じですが、いつかちょうどいい場所に落ちつけるといいですね。
ちなみに今回のオケでは、バスドラムの音がタイトで好きだったりします。
昨日は[Masquerade]でちょっと暴走気味でしたけどね(笑)
役者さんに関しては、笠松さんは相変わらず好調。
ただ前回よりも「頼りがいのあるお姉さん」的要素が強くなっていて、特に1幕目はその健康的な感じが少しクリスティーヌの実情にそぐわないかなと思う面が無きにしもあらずでした。
しかし2幕目のラストでは、ファントムを包み込む懐の大きさが感じられて良かったですね。
ラウルは相変わらずの安定っぷり。
出だしの老ラウルの高音がとてもきれいに響いていました。
これは前回に観た時も思ったのですが、[Hannibal]のカルロッタのソロの後に続くコーラスがスカスカだなぁ。
特に男性三人組のテノールパート、頑張れ、もっと頑張れ!
で、高井さんですよ高井さん。
うーむ、喉が疲労しているなぁ。
ひっくり返ったり、大きく崩れているような所はありませんでしたが、恐らく思ったようには歌えていないのではないかと。
1幕最後の天使像の場面もそうでしたし、2幕の墓場の場面などもそうですが、本当はもっと声量を出して、グワ〜〜ッと歌いたいんだろうなぁ・・・と感じた場面が何か所かありました。
少し声が出にくいと言いますか、微妙に声帯が腫れているのかなと思うような、細い声になってしまっていましたね。
どうも聴くところによりますと、今週は週初めから飛ばし気味だったようで、頼むから体を痛めるような無理な頑張り方はしないで欲しい。
本当に高井さんの声はかけがえのない宝なんだから。
しかし演技面では、その出にくい声を必死に出そうとしている姿が、ラストのファントムの必死さと重なって、久しぶりに心に痛みが走るような追い詰められたファントムの演技になっていたと思います。
ここ最近は穏やかな悲しみと言いますか、全てを受け入れた様な静かなラストを迎える事が多かったと思うのですが、昨日は今にもボキッと折れてしまいそうな、少しの衝撃で崩れ落ちてしまいそうな、脆いファントムでしたね。
思わず手を差し伸べて支えたくなるような演技だった。
そして最後の「I Love You」が、クリスティーヌへのお別れの言葉に聴こえました。
なぜか「さようなら」と言っているように聴こえたんですよ。
自分の元へ留めるための言葉ではなく、送り出すための言葉としての「I Love You」もあるのかも知れないなぁ・・・と思いました。
舞台全体としては、どちらかと言うと2日の方が完成度が高かったと思うのですが、しかし今回の舞台を観てから、体は新幹線に乗って神戸に帰って来たものの、どうも魂の一部が汐留に残りっぱなしのようでして、気が付くと頭の中で舞台をリフレインしている状態です。
絞り出すように歌っている高井さんの声や、今にも前のめりに倒れ込んでしまいそうなファントムの姿をね。
・・・・また近いうちに魂を回収しに戻らねばな、うん。
傾く西日に伸びる影。
”劇場”と言う怪人の住処を後にし、光の中に帰って行く男女の影が印象的だったので、少し加工してみました。